メテオス擬人化小説「Lita」番外編SS Destiny
宇宙のどこかに浮かぶ地球に酷似した青い惑星ジオライト。その星のとある地域にその一軒家はあった。
その家の二階にあるカーテンを閉め切った部屋でそのジオライト星人はまだベットの中でスースーと寝息を立てていた。
と、その時。
ジリリリリリリリリリリリッ!!
枕元に置かれた目覚まし時計が騒ぎ出す。その針はジオライト時間で午前7時を差していた。
「……ん…う"ぅん……?」
呻きながら目を覚ます青年。寝起きが悪いのか、五月蝿いなぁと言わんばかりに眉間に皺が寄っている。
暫くボーッとしていたが布団の中から素早く腕を出し、枕元の「それ」の上に翳すと、思いっきり振り下ろした。
ガキィン!!
多少不吉な音を響かせ、目覚まし時計が大人しくなる。
「そういえば、今日はあの日なのだ…。もうそろそろ起きて支度しないと……」
そう呟きながらようやっとその体を起こした。
ボサボサの水色の髪を掻きむしりながら欠伸をしているジオライト星人 ー アセト・D・ジオルト ー は今日のプランについて思考し始めた。どうやらまだノープランだったらしい。
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ジオライトから亜空間航行で1週間かからない所に球体の惑星が浮かんでいた。その表面の茶色からこの星の環境が厳しい事は容易に想像出来る。
アナサジ星…荒野と沙漠に覆われた星。昔の緑豊かだった面影は全く無い。しかしながら、天然の洞窟と水脈と不思議な鉱石が支配する地下も持ち合わせている。今も尚血なまぐさい雰囲気を漂わせる幻想的な場所に地下族が住んでいたのは数十年前までの事。
アセトが眠い朝を迎える数日前…毎日生きるか死ぬか瀬戸際の攻防が行われているアナサジ星の荒野のとある場所に1つの影があった。
「あ"ぁっ…今日の依頼も無事に終わったか。」
そのウェスタンなアナサジ星人 ー セルヴァ・S・ティエラ ー は日が傾いて来た空を見上げ、次いで果てしなく広がる荒野に目を走らせる。
「ところで…今朝からその恰好してるけど、いつまでそれでいるつもりだ?」
背後にある洞穴を振り返り、溜め息混じりにセルヴァはそのアナサジに問う。
「その恰好も何も、オレは初めからこの恰好だぞ?」
そう返しながらセルヴァの相棒であるウェスタン装束を身に纏った青年 ー イザ・F・デザートローズ ー は口の端を上げる。
「おいおい、冗談言うなよ。いくら気に入ったからって、ずっと『イザんごっこ』してんのもどうかと思うぞ?」
口の端を上げた意味は分からないながらも笑って返すセルヴァ。
「…ところで、良いのか?もうそろそろ行かないと約束の時間に間に合わないんじゃないか?」
イザはそんなセルヴァの言葉を軽くスルーして問う。
「…。そうだな。もうそろそろ行くか。じゃ、いつも通り俺の後ろに乗ってくれ。」
少しムッとしながらもセルヴァはそう言って今まで周りの景色に体色を同化させていた迷彩馬 ー 愛馬「Dark Ray」 ー に跨がる。
「……。」
「…どうした?いつも通り乗っちゃえよ。」
「あぁ…。」
イザは暫く渋った末、Dark Rayの背中に跨がった。
それを確認するとDark Rayはセルヴァの指示も無しに走り出した。
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荒野の一角に広がる建物と滑走路のようなもの。
明らかにアナサジ星とは不釣り合いなその近未来的な建物の中にイザ達は居た。
「ダークレイも連れて行くのか?」
「あぁ。いつも留守番させてるから、たまには連れて行くかって思ってさ」
「そうか。」
2人と1頭はジオライト星行きシャトルの発着場ゲートへと歩を進めていた。ふと窓に目をやると歪な形の白いロケットのような機体が見える。
「セルヴァ。オレ達が乗るのって…」
「あぁ、あれさ。」
「あれって『こんなこともあろうかと思って作っておいた、星の遠さもなんとかしてしまう装置』じゃないか。」
「ぇ、エーデ、何で知ってるんだ?」
「何を言っている。何回か乗ってるじゃないか。」
「そ、そうだったな…。」
自分のボケ具合に顔をしかめながら記憶を呼び起こしつつ後ろ髪を掻いた。
(おぃおぃ、大丈夫かコイツは…。)
セルヴァの抜け具合に思わずツッコミを入れるDark Ray。彼には感付かれることはなかったが…
「いや、駄目だろう。」
「?」
Dark Rayのツッコミに相槌を打ったイザを見てセルヴァは不思議そうな顔をした。
そんなこんなでイザ達は手続きを済ませ、「こんなこともあろうかと思って作っておいた、星の遠さもなんとかしてしまう装置」に乗り込んだ。
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アナサジの発着場から1機の「こんなこともあろうかと〜装置」が発射した。
何となく不安感を煽る外見の機体が、夕日に照らされた空を引き裂きあっと言う間に大気圏を突破していく。
(ほぅ…そんなに酷いものではないみたいだな。)
機体の中で発射時の衝撃を思い出してそう思考するDark Ray。一応“馬”なので、今は貨物スペースに居た。座り込んで、すっかりくつろぎモードである。
と、その時。
“間もなく、『こんなこともあろうかと思って作っておいた、星の遠さもなんとかしてしまう装置』は亜空間航行に入ります。座席の安全ランプが消えるまで座席からお立ちにならないよう、お願いします”
標準語でナレーションが入る。その後もアナサジ地上語、ジオライト語で翻訳されたナレーションが入った。
身体に激しいGがかかったのを感じ、窓から外を見てみると宇宙の星々が後方へと流れて行く。どうやら亜空間航行に入ったようだ。
(重力装置の性能は良くないんだな…。)
安全ランプが消えているのを確認して、座席を立つ。
「ん…何処に行くんだ?」
セルヴァにしては珍しく考え事をしていたらしい。隣の座席のイザが立ち上がってるのを確認するのに数秒間かかった。
「水を飲みに行く。」
「そうか。……さて、俺も機内散策とでも行こうかな!」
笑みを浮かべ、セルヴァも座席を立つ。どうやら、考え事を吹っ切ったらしい。声がやたら明るい辺り、何やら無理をしたのだろう。
「ジオライトに着くまでまだ数日あるから、暇にならなきゃ良いな。」
「あぁ。」
そして2人はそれぞれの目的地への移動を開始した。
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イザ達がアナサジを発ってから数日後の約束の日。
ジオライトの宇宙船発着場の発着ゲートに一対の水色の角の付いた青い帽子をかぶったアセトがいた。
両手を膝につき、肩で息をしている。
「はぁ…はぁ……ま、間に合ったのだ。」
無理矢理一息つかせ、電光掲示板に目をやる。後2分くらいで乗客がゲートから姿を現す筈だ。
と、その時。
「アセト君、何してんの?」
振り返るとそこには肩甲骨くらいまでの長さのスカイブルーの髪に一対の角が付いたカチューシャを付けている…
「ぇ、ホルムさん!?何でこんなとこにいるのだ?」
思わぬ人の登場に目を見開いて驚くアセト。今にも顎が外れるくらい口をポカンと開けている。
「えへへ…アセト君が走ってるとこ見たから、気になっちゃって付いて来たんだ!」
ー ホルム ー そう呼ばれた女性はそう言うとにっこりと笑って見せた。セミロングの髪が多少乱れていることから、彼女もまた走って来たのだろう。しかし、呼吸が乱れている様子は全く無い。そのことにアセトはショックを隠せなかった。
「〜…っ! …ところで…アナサジから…誰か…ぁ、エーデちゃん達が来るの?」
愕然とした顔のアセトを見て込み上げて来る笑いを必死に堪えながらホルムが問う。
「……ぇ、ぁ、あぁ。そうなのだ。もうすぐ降りてくるのだ。」
「そっか! じゃあ、折角だし挨拶しようかな。」
直後、発着ゲートから乗客が降りて来る。主にジオライト星人が多いようだ。ちらほら他の宇宙人も見られる。どうやらメガドームからのツアー客も混ざっているようだ。
「うぇーい、セルヴァ!エーデさん! ……うぇ?」
その乗客の奔流の中から馴染みの顔を見出した声をかける…が、セルヴァの愛馬・Dark Rayも一緒なのに気付き、驚きの声をあげる。
「よう、元気にしてたか?」
「…久し振りだな。」
セルヴァはニカッと笑みを浮かべ、イザは口の端を上げて微笑みのような表情を作った。
その笑みは再会の喜びというより、アセトの驚きの表情から来ているのかもしれない。いや、絶対そうだ。
「2人とも、久し振り〜なのだ!」
「あ、あぁ。久し振りなのだ。…ところでダークレイも一緒だったのだ?」
ニッコリと笑って大きく手を振るホルムの隣でセルヴァの愛馬が一緒だと言う事にまだ動揺しているアセト。
取り敢えず、流石、アセトはヘタレだな…などと心の中で嘲笑っておく。
「あぁ、たまには一緒に連れて行こうと思ってな。」
無意識の内にDark Rayの首辺りを撫でながら答える。
先を越されたセルヴァが少し頬を膨らませるような動作をしたことには誰も気付かない。
「…ところで、エーデさんその恰好はどうしたのだ?」
「あぁ、最近『イザんごっこ』に凝っている。」
「ふ〜ん…そっか!」
訝しげな表情をしていたアセトだが、返って来たさも当然のような一言でその疑問も消え失せる。そして納得した顔をしてセルヴァに話しかけ始めるのだった。なんとも単純である。
「…貴方、エーデちゃんじゃないでしょ?」
「イザんごっこ」たる言葉に連動したイザの微妙な表情の変化を見逃さなかったホルムがこっそりと問いかける。
アセトもセルヴァも話に夢中でコソコソ話に気付いてない。それどころか、ニヤニヤし始めたセルヴァに両頬をつねられて大騒ぎしている。
「エーデ……?オレはイザだ。」
そんな2人の様子など気にも止めないかのようにイザはいつもの調子で話す。
「イザ…。あら、あの 『Desolate IZA』ね。」
「あぁ、そうだ。」
ここにいるのが当然、という表情で以って答えるイザ。まぁ、それが当然と言っちゃ当然だが。
「そうそう、エーデさん。これから行く所なんだけど…」
今まで大騒ぎしていたアセトが振り返ってイザに話しかけた。目には涙を浮かべ、頬は真っ赤になっている。
「ん? なんだ?」
アセトの様子に半ば呆れながらも耳を傾けることにした。
っていうか、こんな人通りの多い所でそんなガキみたいなことするなよな…。
「ウサギーランドかウサギーシー、未田夢牧場、しぶたに、はらやど、ナツバ…の内、何処行きたい? だってさ。エーデ、どうする?」
セルヴァがアセトの言葉を繋いでイザに問いた。
「そうだな…ウサギーランドの『アナサジランド』という場所が気になる。」
「あれ、そこなら前にも行ったじゃん。まぁ、良いか。…だってさ、アセト。」
イザの言葉を受けてアセトに向き直り、先を促す。
「ウサギーランドなのだな?うぇーい、早速行くのだ!」
ニッコリして行く気満々の大声を上げるアセト。
ぶっちゃけ五月蝿い。周囲の迷惑である。そんなようなことを思いながらもアセトについて一行も発着場を歩き始めた。
「私も途中まで付いてくね。」
アセトとセルヴァの隣を歩きながらホルムが笑いかける。アセトが少し顔を赤らめてそっぽを向いた気がした。
「そのウサギーランドってのは電車でどのくらいかかるんだ?」
ホントはアセトに訊こうと思ったのだが、本人が余所見しているので使えないと判断してホルムに訊いてみた。
「う〜ん…1時間はあれば着くんじゃないかしら?」
「そうか。」
「ところでエーデさん。」
今まで余所見をしていたアセトがこちらを振り返っているのを視界に捉えた。何処か不思議そうな面持ちをしている。どうやら本気で考え込んでいるようだ。
「何だ?」
「お前が『イザんごっこ』してるのは分かってんだけどよ…」
「今日のエーデさん、滅茶苦茶背が高いのだ。」
アセトの隣を歩くセルヴァも同じことを考えていたらしい。
「………ぷっ!」
(いや、エーデ違うから!!)
馬鹿や。こいつら馬鹿や。ホルムとDark Rayは心の中でそう叫んだ。
何故こうも気付かないのか、それが不思議だった。
「そうか?」
言う表情のなんともしれっとしていること。その話題には全く無関心なようだ。
「そうなのだ。それに、顔の輪郭とか髪型とか目の形とかが微妙に違うのだ。整形でもした?
「いや、整形なんてしてないぞ。いつも一緒にいたからな。」
セルヴァも負けず劣らずBA-KAである。本気で考えちゃってさ。
「そうなのだ?じゃあ、どうしたのだ…」
難しい顔をして悩む馬鹿2人。腕まで組んで、真剣なものである。しかもあまりに考え過ぎて歩を進める事すら忘れてしまっている。いいから歩かんかい。
もういい加減呆れて来た。
「ぁ…分かったのだ、成長したのだな!!」
「んな訳あるか!!」
閃いた顔をした直後、明後日の方向に「異議あり!!」みたいなポーズをして自信満々に叫ぶ。そんな様子を見て即座にツッコミを入れるホルムとイザ。
まったく、どこまで馬鹿なんだか。つーか、何処を向いている。
そして相変わらず大声出して…周囲の迷惑も甚だしい。
その証拠にすれ違った何人かの他に、壁際にいた人やら店の従業員さんやらがこちらを振り向いている。笑ってる人も見受けられるぞ。
勿論その様子に馬鹿2人は気付く余地もない。それどころか…
「うーん…何か気になるけどまぁ、良いのだ。」
「気にせず今日は楽しもうぜ!」
いとも簡単に、あっさりと諦めた。考えるのに疲れちゃったようである。
(つか、いい加減気付けよ…)
セルヴァにしろ、アセトにしろ、馬鹿さ加減にはうんざりだ、と内心呆れるDark Rayであった。
でも面白い事になってるからもうちょい馬鹿さ加減を見てたいな、とも考えてしまう。いつから物好きになったんだか…と苦笑するのだった。
「コイツ等も賑やかなだな…。」
その様子を傍観していたイザがポツリと呟く。
「ん?エーデさん、何か言ったのだ?」
「いや、別に。」
先程と変わらぬしれっとした表情で答えるが、口元には微かな笑みが広がっていた。
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